『MALA NOCHE』BACKGROUND 1
処女作品に作家のすべてがあるーガス・ヴァン・サントの原点
初めての映画はLA時代に撮った『Alice in Hollywood』という45分の映画だが、彼はそれを自分の最初の作品として挙げていないので、『マラノーチェ』が最初の映画と言っていいだろう。この映画には、処女長編ならではの、ガス・ヴァン・サントの原点とも言うべき、彼のその後の映画との共通点が詰まっている。特にポートランド三部作と彼が後で結論づける映画の共通点は多く、『ドラッグストア・カウボーイ』の青空のシーン、『マイ・プライベート・アイダホ』の導入の、抜けるような遠景のシーンに見ることもできるだろう。その後も、必ずと言っていいほど、空や雲のシーンが、トレードマークのように挿入されるガス・ヴァン・サントの原点とも言えるのがこの映画の遠景に見える。それは実現しなかったという雲についての映画を構想するほど、彼のイメージの源泉に近いところにあるようだ。
またこの映画には、彼の文学とアウトローへの憧れも表現されている。ポートランドのストリートを代表し、ケン・キージーとも親交の深かった詩人・作家のウォルト・カーティスは、ホームレスや酔いどれや売春婦やポン引きが集う、いかがわしい街で創作し、朗読会を行ってきた。全国的にはそれほど知られていない彼の原作を映画化する作業は、次の『ドラッグストア~』の原作者ジェームズ・フォーグルや、親指のデカい女ウェスタン『カウガール・ブルース』の原作者トム・ロビンズとも繋がるし、ウィリアム・S・バロウズ、アレン・ギンズバーグらビート詩人へのリスペクトは相当なものだ。それに彼の映画の主人公たちも、社会の枠の外にハミ出した人間ばかりで、『誘う女』『グッド・ウィル・ハンティング』『小説家を見つけたら』でさえ、タブーを犯す女教師、数学の天才だった用務員、才能に目覚める黒人青年と、普通のようでいて、実は異質なのかもしれない。
そして最後に、この映画でも、85年という、ゲイ・フィルムどころか、インディペンデント映画というジャンルがまだ出始めたばかりの時代に、ゲイのテーマでも、きれいではないストリートの要素と合わせながら、しっかりとストーリーで描くことのできる監督としてその存在を知らしめたはずだ。