街角の小さな食料品店に働くウォルトの前に、突然現れたジョニー。ジョニーは、メキシコからの不法移民。その日暮らしの、ストリートチルドレンだ。
その野生児のような荒削りの美しさに、ウォルトは忽ち虜になってしまう。しかし、2人は共通の言語を持ち合わせていない。
ウォルトの募る想いとは裏腹に、ジョニーは彼の心をするりとすり抜けてしまう。そんな折、ジョニーとウォルトに最悪な夜が訪れる......。
『エレファント』『ラストデイズ』の衝撃が記憶に新しいガス・ヴァン・サント監督が、1985年に発表しながらも、その後、永らく人目に触れる事なく封印されてきた伝説の長編デビュー作が、この「マラノーチェ」だ。ビート・ジェネレーションの影響を色濃く反映したポートランド出身の詩人、ウォルト・カーティスが1977年に初めて著した自伝的同名小説にガスが惚れ込み、私財を注ぎ込んで完成させた本作は、『ドラッグストア・カウボーイ』『マイ・プライベト・アイダホ』に先じて製作され、“ポートランド三部作”の最初の一本としても知られている。世界の映画祭で上映され、批評家から絶賛されながらも、幻のカルト映画として語り継がれていたガスの名作が、HDにて復元に成功。今、ニュープリントで蘇る!
<『ミッドナイト・カウボーイ』のようなストリート・ウェスタン感、『第三の男』の光の質感、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』のようなインディペンデント性を併せ持つガス・ヴァン・サントの長編処女作が日本初公開!>
コロンバイン高校の銃撃事件を描いた『エレファント』、カート・コバーンの自殺までの空白の時間を描いた『ラストデイズ』など、そのクリエイティヴな映画作りで、世界中からリスペクトされる映画監督ガス・ヴァン・サントの、長く待たれた処女長編作『マラノーチェ』がようやく日本のスクリーンで観られることに。HDという形で監督の再編集のもと、陽の目を見ることになったこの85年製作のモノクロ作品は、彼が、後に続く『ドラッグストア・カウボーイ』『マイ・プライベート・アイダホ』とともに、監督(結果的に)ポートランド3部作と呼ぶシリーズの先駆けだった。
<遠景の空のショットと、美しく照らし出される横顔など、ガス・ヴァン・サントの映像の原点が見られる>
メキシコから国境を越え、貨物列車などに飛び乗って北上してきた不法移民青年のジョニーに心ときめいたコンビニ店員のウォルトが、なんとか彼の心と身体をものにしようと、安ホテルに身を寄せ、生活に困窮する彼とその仲間の世話を焼く物語は、ポートランドではよく知られた詩人・作家のウォルト・カーティスの同名小説を原作とする。カーティスの自伝的小説ということもあり、彼をアドバイザーに迎え、初恋に浮かれるような初々しさと、カネを渡して寝るという不純さなど、(監督曰く、映画と同じ白と黒の世界のようにはっきりとした)人間の本質が見え隠れする映画は、映画祭などでも評判を呼び、彼に後々のチャンスを与えることになった。
<社会の周縁にうごめくアウトサイダー・カルチャーへの誘惑>
舞台となったのは、彼の地元である、アメリカ北西部にあるオレゴン州はポートランドのうらぶれた界隈。酔っ払い、ジャンキー、ギャンブラー、娼婦らが集まる、いわゆるスキッド・ロウと呼ばれる地区だ。ようは、社会から爪弾きにされたアウトサイダーたちの吹き溜まりだった周辺は、今もあまり変わらないという。主人公が働く6丁目にあったというギリシア系食料品店のそばによく似た店を作り、撮影は行われた。度々登場する、ロイヤル・ホテルのネオン看板もいまだ顕在のようだ。
<イマに繋がる即興的な演出と、カメラに愛される俳優を見いだす才能>
ガス・ヴァン・サントがNYの広告業界で働いて貯めた、およそ250万円の予算で作られた映画の撮影期間は約4週間。偶然フィルムのラボで出会ったニュース・カメラマンのジョン・キャンベルは、あえて仕事を辞めて参加し、主人公が惚れるメキシコ系青年のジョニーには近隣の町でアメリカ先住民系の素人を、その友達ロベルトには、ポートランド作家キャサリン・ダン(『Geek Love』)が通うボクシング・ジムで見つけた。キャンベルのバンに少ない撮影機材を積み、ステーション・ワゴンにみんなで乗り込むと、ロケ地探しから交渉までその場で行うという映画作りの原点を敢行した作品は、そんな映画の初期衝動に満ちている。それは彼が『ジェリー』などで、何度となく立ち返っている手法でもある。
また恋の幻想と、言い訳、それに伴う所有欲。恋は盲目とはよく言ったもので、それを純粋と想いこむウォルトの都合のよい恋心と、どこにでもある恋愛の力関係が、安ホテル、シェルター、チャイナタウンのネオンを背景に繰り広げられる傑作が紐解かれる。